幻想郷であっても、陽は沈む。 いや、幻想郷なればこそ、陽が沈む事は一日の終わりとして、或いは始まりとして重要な意味を持つ。 日の暮れを一日の終わりとして捉える者と、始まりとして捉える者。 そして、その境界に位置し、それを越えて存在する者。 博麗神社。 紅白の目出度い装束を身に纏った巫女は、仄かに燈した行灯の灯りを頼りに御籤を作っていた。 勿論、その中に末吉は無い。 きちんと神託を受けて作成しているのかどうかは知らないが、形式だけはしっかりしている様だ。 ……もっとも、その御籤をひく人も存在も殆どない。 そもそもが博麗神社の参拝客など、殆ど居ないのだ。 「……そう考えると、態々こんなものを作るのって無駄よね…」 誰に宛ててか知らないが、小さく呟くと、霊夢は今まで作業していた机に突っ伏した。 腕を軽く組んで、その上に顎を乗せる。傍目にはふてくされた様にも見える仕草だ。 十分とは言えない灯りに照らされた室内で、霊夢はぼんやりと時の流れを感じる。 ふと、視線の隅に自分と同じ紅白の物体を捉える。 ……陰陽玉。 何時も妖魔調伏には携行する道具であり、霊夢の……博麗の巫女の象徴でもある。 …あれ? そう言えば、何時からこの陰陽玉は紅白になったのだろうか。 何時であったか、かつては黒と白で縁起でもない色だと思ったものだ。 そう言えば、そもそもこの陰陽玉は何時からここにあったのだろうか…… 博麗神社に代々伝えられている道具で……そしてどう言う意味があるのだろう。 ……指先でその紅白の玉を弄びつつ、物思いに耽る。 結論は、きっと出ないだろう。 ……それでも、物思いに耽る事に、何かしらの意味が在るのかもしれない。 或いは、作業を中断する良い言い訳になるかもしれないが。 霧雨邸。 魔法の灯りで明るくとも暗くともつかない程度に照らされた室内は、余りに多くのアイテムに埋められていた。 そんな、物に埋められた空間の間隙に、一人の人間が存在している。 余りに沢山の物品の魔道法則と物理法則とを上手く調節し、均衡の取れたその中心に椅子が一つ。 その上に、金色の髪の魔法使いが座していた。 膝の上には、一本の箒。 魔法使いの象徴とも言えるその箒は、いまその持ち主である魔法使いの手で手入れが為されている。 魔法使いの眼は真剣そのものであり、魔法の灯りと月の灯りに照らされて蒼く光っていた。 「…んー、どうもこいつは右に曲がりすぎるクセがあるからな…」 箒から、適度に穂を抜き出す。 空を飛ぶ時に箒にまたがるのは、別に格好を付けたいというだけではない。 効率的に魔法力を発散し、長距離飛行でも疲れないようにすると言う意味があるのだ。 少なくとも、魔理沙はそう信じているし…そうでなかったとしても格好が付けばそれでいい。 兎も角、魔法使いとして箒の手入れには余念がない。 魔理沙の目の前、半分以上アイテムに埋もれた机の上には、魔法耐性に秀でた銀の皿。 そしてその上には、抜き出された穂が揃えて並べられている。 「ま、こんなもんか……これからもよろしく頼むぜ?」 そう呟き、魔理沙は箒の手入れを終了する事に決めた。 呟きの後半は手入れした箒に対しての言葉であったようだ。勿論、この箒には意思も何もない。 そして箒を片付けに行こうとした折、机の上に抜き出された箒の穂の余りが目に入った。 こちらの穂はしばらく使う予定もない……むしろ、魔法の影響で痛みかけていて抜いた部分だ。 魔理沙はすぅっと手を引き、軽く念を籠める。 ぽっ、と小さな音を立てて、それらは魔法の炎に包まれた。 「……今まで、ありがとな…」 つい、そんな呟きが漏れる。 ……箒に意思がないならば、この抜き出された箒の一部にも意思はないだろう。 それでも、つい…何か、大事にするものに対して愛着のような感情が湧くのは何故なのだろうか。 少しだけ考えた後、魔理沙は「そう思うのだから、それでいい」と言う結論を出した。 皿の上には、黒く燃えた灰が残っていた。 紅魔館。 メイド長として業を為し終えた咲夜は、自室でナイフの手入れをしていた。 ぎらぎらと光るそれは、支給物の多い彼女の持ち物の中で数少ない私物である。 所持する数も多いが、それらは全て手入れが行き届き、一点の曇りもない。 ランプの光を映し、整然と並べられたそれらは完璧な輝きを宿している…様に見えた。 一点、その光列の乱れた部分を、咲夜は見逃さない。 その原因となった一本を手に取り、刃を確認する。 思った通り、刃に欠けが存在した…これは直ぐに整えねばなるまい。 完璧たる従者は、その所持品に対しても常に万全の心を持ち続けているべきであるのだ。 ……ドアを叩く音。 それまで無言でナイフの切っ先に意識を集中していた彼女も、視線を上に上げる。 僅かに開いた扉の向こうに、彼女の主たる少女の姿が見えた。 …一瞬刺す様な視線を送ってしまったが、直ぐにこちらも柔和な表情に戻る。 「……如何なされましたか、お嬢様?」 「…何だか、良く眠れないの……ねぇ、何かおはなしして……?」 つい、自然に笑みがこぼれてしまう。 目の前の少女は自分の何倍もの時を過ごしている筈であるのに…… そっと手を差し伸べ、守ろうという気になってしまう。 「…それでは、こんなお話は如何ですか…?」 お嬢様をお部屋にお連れしつつ、今日のナイフの手入れは断念した。 ランプの灯りを消しつつ、完璧である事は完璧ではないのだな…と思う。 ナイフは既に、反射する光を失っていた。 ------------ えぇと、今回は敢えてあんまりコメントはなしで。 特に言うとすると、それぞれの雰囲気を書いてみたかったかな、と。 それぞれを象徴する小物で締めてみましたが…それぞれの小物への愛情を。 同時にこれは書いてる私から全ての小物への愛情の表れと読んで下さっても可です。 他に灯りの辺りだとか、本当に小物で目も触れられない様なものをちょっと見ていただけると幸いです。  書いた人:KOR